映画『羊たちの沈黙』世界中を震撼させたサスペンス・ホラーのレジェンドです!!

羊たちの沈黙(The Silence of the Lambs)』は、1991年公開のアメリカのサスペンス・ホラー映画です。原作はトマス・ハリスの同名小説で、監督はジョナサン・デミ、ダブル主演でジョディ・フォスターアンソニー・ホプキンス、他にスコット・グレン、アンソニー・ヒールド等、が出演しています。

目次

 

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1.受賞

1)アカデミー賞

作品賞:エドワード・サクソン/ケネス・ウット/ロン・ボズマン
監督賞:ジョナサン・デミ
主演男優賞:アンソニー・ホプキンス
主演女優賞:ジョディ・フォスター
脚色賞:テッド・タリー
アカデミー賞の主要5部門すべてを独占したのは『或る夜の出来事』(1934年)、『カッコーの巣の上で』(1975年)に次いで3作目となっています。


2)第57回ニューヨーク映画批評家協会賞

作品賞
監督賞:ジョナサン・デミ
主演男優賞:アンソニー・ホプキンス
主演女優賞:ジョディ・フォスター


3)第41回ベルリン国際映画祭

銀熊賞(監督賞):ジョナサン・デミ


4)第49回ゴールデングローブ賞

主演女優賞 (ドラマ部門):ジョディ・フォスター


2.制作

1)原作権

当初、トマス・ハリスから原作権を購入したのは、ジーン・ハックマンであり、彼自身が監督を希望していた。しかし、脚本の内容が暴力的であることを理由に降板。その権利も放棄し、オライオン・ピクチャーが権利を買い取った。


2)主役

レクター博士はスタジオ側がショーン・コネリーを希望したが、コネリーはオファーを拒否、第2候補だったホプキンスに役が回ってきました。続編の『ハンニバル』(2001年)でもホプキンスがレクターを演じています。


3)ヒロイン

クラリス役はジョナサン・デミミシェル・ファイファーを希望していましたが、本人がオファーを辞退し、当初から売り込んでいたジョディ・フォスターが役を得ました。本作はジョディ・フォスター自身のお気に入りの作品でもあります。


4)被害者役

本作に登場するバッファロー・ビルの被害者たちの写真は、実在の女優らを使って撮影されたものです。


5)公開

クレジットでも確認できるように、本作は元々は1990年に公開予定でした。しかしオライオン・ピクチャーズは同じく1990年に公開だった『ダンス・ウィズ・ウルブズ』とアカデミー賞を分け合うことを嫌い、1991年に延期され、2月14日のバレンタインデーに公開されました。年の早い時期の公開はアカデミー賞には不利と言われていましたが、主要5部門を受賞しました。


6)後日譚

本作はバッファロー・ビルの描写にあたって、差別を助長しかねないとしてゲイ団体より激しい抗議を受けました。監督のジョナサン・デミは次作で『フィラデルフィア』(1993年)を製作し、その声に謙虚に応えました。

 

 


3.ストーリー

1)連続猟奇殺人事件

カンザスシティミズーリ州で連続猟奇殺人事件が発生しました。次々と若い女性が行方不明になり、発見された遺体の一部の皮膚が剥がされているというものでした。

FBI行動科学課のクロフォード主任捜査官(スコット・グレン)は、5人の殺害犯人であり逃走中の通称・バッファロー・ビルの心理を解明するべく監禁中の凶悪殺人犯で元精神科医ハンニバル・レクターアンソニー・ホプキンス)に協力を求めるが拒絶されていました。


2)抜擢

そのころFBI捜査官になるべく、FBIアカデミー女性訓練生として優秀な成績を持つクラリススターリング(ジョディ・フォスター)は大勢の男性訓練生と互角に渡り合うほど血のにじむ様な努力を積み重ねていました。

ある日クロフォードに呼び出されたクラリスは、連日の猟奇殺人事件の解明の為に獄中の元精神科医ハンニバル・レクターに会って、バッファロー・ビル事件の心理分析の協力を依頼することを指示されました。FBIアカデミー訓練生でありながらその任務を任され捜査に挑戦することになったクラリスは、レクターが収監されているボルティモア州立精神病院へと向かう事となりました。


3)面会

ボルティモア州立精神病院へと向かったクラリスは、チルトン医師(アンソニー・ヒールド)から、決してレクターをまともな人間だと思わないように。そして絶対に個人的な話をしてはならない。と警告されて、彼と面会します。

 

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とても紳士的かつ知的な眼差しでクラリスを迎えるレクターは、超人的な嗅覚でクラリスのつけているクリームや香水をいとも簡単に当ててしまいました。
どうして、バッファロー・ビルが皮膚を剥ぐのか、というレクターの質問にクラリスは、連続殺人犯は人を殺して興奮し、記念としてとっておく、という見解を述べますが、自身が連続殺人事件犯であるレクターは、自分は違ったと、まるでバッファロー・ビルが普遍的な人間と言わんばかりに答えるのでした。


4)取引

レクターは自身の患者などを殺して食した殺人鬼であり、高い知性を持っていることから厳重に収監されていました。そこでクラリスは、捜査に協力すれば今より環境の良い別の施設に移れるようにするとウソの提案を持ち出しました。

 

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しかしそれを見透かすように、レスターは、事件に協力する条件として、クラリス自身のことを話すことを交換条件に要求してきました。


5)女装癖

自分の幼い頃の情報とバッファロー・ビルの人物像についての考察の情報交換に応じたクラリスは、レクターから精神科医時代の患者へスター・モフェットを探すよう指示されました。

へスター・モフェット名義の倉庫を見つけたクラリスはホルマリン漬けにされた男性の頭部を発見します。化粧を施されていた男性の頭部は「ベンジャミン・ラスペール」というレクター博士の元患者で、メイクや女装癖のある男の実験台になり殺されたと聞かされました。


6)6人目の被害者

程なくして川からまた女性の遺体が見つかり、クラリスは6人目の被害者の検視に立ち会いました。背中には被害者共通のダイヤ形に切り取られた皮膚の跡がやはりあり、被害者の喉の奥に何かが詰まっているのを発見しました。

 

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故意に入れられていたそれを調べると、東南アジアにしか生息しないスズメ蛾(メンガタスズメ=ガイコツガ)の繭だと判明しました。


7)告白

早くバッファロー・ビルの情報を得たいクラリスは、再びレクター博士の元を訪れ情報の見返りにニューヨークへの移送を提示しました。しかし彼女自身の子どもの頃の悲惨な想い出を言うようにレクターに要求され、父子家庭であった事、店に押し入った強盗二人組に警察官であった父が銃で撃たれて死んだ過去をクラリスは正直に告白しました。

レクター満足しましたが、クラリスバッファロー・ビルは何故被害者の喉にスズメ蛾の繭を入れ込むのかの質問に、蛾が「変化」を表していると教えられるも、クラリスの幼少の頃の話へとすぐ戻されました。

クラリスは、父親の死後羊牧場を営む叔母夫婦に預けられ、たった2か月で逃げたことを話しました。まるで精神療法のような質問を執拗に繰り返すレクターに今度はバッファロー・ビルの情報を要求します。

そこでレクターは、幼少の頃に受けた虐待による変身願望があるとバッファロー・ビルのプロファイリングを伝えました。しかし、この2人のやり取りは、チルトン医師に盗聴されていました。


8)移送

そのころバッファロー・ビルの次のターゲットとして、マーティン上院議員(ダイアン・ベイカー)の娘キャサリン(ブルック・スミス)が連れ去られてしまいました。

チルトン医師は、レクターを拘束し、クラリスの話したニューヨークへの移送の話は嘘だと告げてしまい、そして自分の手柄にするためマーティン上院議員バッファロー・ビルの正体を聞き出して娘を救い出すべく、レクターを差し出すのでした。

 

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メンフィスへと移送される空港内の中で、レクターはマーティン上院議員に卑猥で皮肉を込めて「足を切断されたものは、足がないのに足の痛みをチクチク感じる。教えてくれ、あなたは娘が遺体安置所におかれたら、あなたのどこがチクチクする?最後にもう一つだけ。マーティン上院議員、自分の服を大事にな」と話すのでした。この言葉は異常な行動をするバッファロー・ビルの人物像をほのめかしていたのでした。


9)子羊の悲鳴

クラリスは、レクターのいる移送先を訪れました。そこでもクラリスは、レクターに幼少の頃の話をさせられました。羊牧場の早朝、納屋で子羊たちが屠殺されているのを見つけ、子羊を1頭抱きしめ逃げ出したことで施設送りになったことを話しました。救えなかった子羊の事件をきっかけにトラウマを持ってしまったクラリスに、
「君は今でも時々明け方に目が覚める?目が覚めて子羊たちの悲鳴を聞くのかい?」
と尋ねます。クラリスの心の奥底にある傷を知ることが出来たレクターはこの上なく満足し、礼を言って、バッファロー・ビルについての考察を提供しました。


10)犯人のヒント

「本質的なものは何か、おまえが追っている男は何をしている?殺しを駆り立てるものは“究極の切望”なのだ。我々は毎日見ているものを切望する。」

レクターの「我々は毎日見ているものを切望する」からヒントを得たクラリスは最初の犠牲者であったフレデリカ・ビンメルをバッファロー・ビルがいつも見ていたのではと思いつきました。

フレデリカの自宅で首のないマネキンとダイヤの形に切られた布を見て、バッファロー・ビルは女性の皮膚で洋服を作ろうとしているのではないかと気づきました。


11)対決

クラリスは、フレデリカが洋裁を手伝っていたリップマン夫人のもとを訪れました。リップマン夫人はおらず代わりにジャック・ゴードン(テッド・レヴィン)という男が出てきました。部屋には裁縫道具があり、あのスズメ蛾が飛んでいるのを発見、彼こそがバッファロー・ビルだと確信するのでした。

 

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家の奥に逃げるジャックを追い地下室の井戸の中でキャサリンの無事な姿を確認すしますが、クラリスは、ジャックを追いかけるうち、部屋の電気が消え、闇の中にさまよいました。しかし暗闇の中で銃の撃鉄をあげる音を聞き逃さず音の方角に向かって連射し、ジャック・ゴードン=バッファロー・ビルを撃ち倒すことができました。


12)終焉

クラリスバッファロー・ビルの事件を解決した一方、レクターは監視を殺し、脱獄を果たしていました。

一連の事件は解決し、クラリスはアカデミーの卒業式を迎え、正式なFBI捜査官になることが出来きました。その時一本の電話が入ます。それは逃走したレクターからでした。

「やぁ、クラリス。君の子羊たちは悲鳴をやめたかね?もっと長く君と話をしたいのだが、夕食に古い友人をね。バイ」

 

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電話の向こうのレクターは、長年自身を厳しく収容したチルトン医師を見ていました。クラリスとの通話を切ると、雑踏の中に紛れて消えていくのでした。

 

 


4.メッセージ

1)タイトル「羊たちの沈黙」の意味

主人公のクラリスは、最愛の父を亡くした後に農場を営む伯父に引き取られた過去を持っています。そこで彼女は夜明けに解体される仔羊たちの悲鳴を聞き、その現場を目撃したことがトラウマになっていました。

彼女は、連続殺人事件の被害者とその仔羊たちを重ね合わせ、事件を解決することでトラウマを克服しようとしていました。タイトルの「羊たちの沈黙」は、羊たちの悲鳴が止み、沈黙が訪れることを意味しています。

そのため、クラリスのトラウマと事件の共通点を見抜いていたレクター博士は、事件解決後「仔羊たちの悲鳴はまだ聞こえるのか?」と問いかけたのです。


2)レクターがクラリス固執した理由

気難しいレクター博士は、なぜまだFBI訓練生であるクラリスにあれほどまでに執着したのでしょうか。彼は残忍に人を殺し、その肉を食べるような人物ですが、純粋で思慮深く、誠実な人物には敬意を払っていました。その証拠に看護師のバーニーもレクター博士のお気に入りで、彼に対しては礼儀正しくふるまっています。

初めて出会ったとき、クラリスレクター博士に促されるまま、周囲の忠告を無視して彼の独房に近寄りました。クラリスは誠実で純粋な女性です。男性ばかりの職場で努力し、犯罪者にも勇敢に立ち向かう彼女に好意的な印象を持ち、また、彼女が過去にトラウマを抱えていたことも、彼の興味をひいた理由の1つでした。
精神科医として、彼女の心の闇に興味を持ったのです。


3)蛾の秘密

バッファロー・ビルの被害者の喉には、蛾の繭が詰め込まれていました。それは、ドクロの模様のある珍しい蛾の繭だということがわかり、クラリスがレクターにこの意味を尋ねると、彼はその意味は「変化」だと言います。犯人には強い変身願望があり、それを象徴しているのでした。


5.トリビア

1)レスター博士のモデル

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ハンニバル博士のモデルになった人物は、アメリカ・ウィスコンシン州ミルウォーキー出身のジェフリー・ダーマーです。「ミルウォーキーの怪物」と言われるほどアメリカ社会に衝撃と恐怖を与えた連続殺人鬼です。1960年5月21日~1994年11月28日。

彼の父親は研究員で家庭を顧みず、母親はジェフリーを妊娠している時に薬物依存に陥り、精神的疾患を持っていました。彼は幼少期からほとんどネグレクト状態で笑顔を見せず、時には1日中全く動かないなど奇行を見せていたと言います。また、犬の死体を見つけた時には、犬の首を棒に刺して家の近くに飾っていました。

1978年7月、ダーマーは大学へ進学する前、コンサートの帰りに彼好みの青年を連れて帰ります。2人でビールを1ダース空け、日が変わる前に帰ると言った彼の後頭部をダーマーはバーベルで殴りました。死体を犯し、腹部をナイフで切り裂くと、床に広がったまだ温かい内臓の上を転がったというダーマー。その後、死体を解体し、頭蓋骨だけは自室に保管しました。

彼はその後も次々と殺人を犯していき、逮捕されたとき、彼の家の冷蔵庫の中には、4つの頭部、肉片の数々が保存されていました。人肉のほかに食料らしいものがなかったことから、被害者を食料にして暮らしていたことを示唆しています。

ダーマーは、8人目の犠牲者の心臓と上腕二頭筋を揚げて、ステーキソースで食べたそうです。彼は被害者を食べ終わると、自分の一部になったと大きく安堵し、その次の犠牲者も同じ道をたどることに。1991年2月、犠牲者を食べたあと、頭蓋骨と両手と性器だけを残し、死体を塩酸の樽に放りこみました。 逮捕時、塩酸の入った樽を運び出す捜査官の写真が残されています。


2)バッファロー・ビルのモデル

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バッファロー・ビルのモデルとなった人物の名は、アメリカのウィスコンシン州バーノン群出身のエドワード・セオドア・ゲインです。1906年8月27日~1984年7月26日。

殺した人数は2人ですが、いずれも女性です。さらに墓場へ計40回ほど訪れ、埋葬されたばかりの遺体(いずれも女性)を掘り起こし、解体して食べるなどの行為を繰り返していました。また、女性になりたいという願望から、人間の皮で作ったランプシェイドや乳首から作られたベルト、女性の顔のマスクなどを作っていました。

類に見ない猟奇性と異常性からアメリカ史上を代表する殺人鬼の1人として、さまざまな映画や小説の殺人犯像に影響を与えています。本作以外にも有名なヒッチコックの『サイコ』も、エドワード・ゲインの影響を受けたと言われている作品の1つです。


3)スズメ蛾

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背面のドクロ模様が印象に残るように、見た目が薄気味悪く捕まえたときの発声もガとしては特異なので不快害虫としても忌み嫌われていますが、犬の顔にも見えるなどの点で好きな人もいるそうです。ヨーロッパメンガタスズメは英語でDeath's-head Hawkmoth の呼び名があり、文字通り不吉や不幸、死の象徴とされていて、まつわる迷信も数多くあるそうです。

東南アジアでは将来の食料として注目されていて、幼虫は非常に栄養価が高く、そのまま炒めたり、焼いたりして食べられているそうです。中国では生で筋肉をすりつぶし肉団子にして調理するそうです。

原作や映画の台詞で言及されているのはアジア産の本種ですが、ポスターを含め撮影に用いられたのはヨーロッパ産のヨーロッパメンガタスズメで、酷似していますが別種になります。

本作のポスターに映っているこの蛾のドクロ模様は、本当の蛾の模様ではありません。実はこれは、シュールレアリスムの芸術家として有名なサルバドール・ダリの1951年に発表した「7人の女性の裸のドクロ」で、女性の裸体を用いた人体トリックアートを蛾の背中にコラージュしたものです。

 

 

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6.まとめ

単純なサイコ・サスペンス・ホラーとしてだけでなく、深い哲学的なテーマを持った本作です。アンソニー・ホプキンスレクター博士は、映画史上に残る悪人として語り継がれています。

怖いもの見たさ、人の奥の闇に潜むダークサイド、が本作を魅了するのでしょう。トリビアやメッセージ性を知った上で、この名作をもう一度噛みしめて観るのもいいでしょう。