映画『クリムゾン・タイド』虚実ともに、ベテランと気鋭のせめぎ合いがみものです!!


この映画『クリムゾン・タイド(Crimson Tide)』は、トニー・スコット監督が、デンゼル・ワシントンジーン・ハックマンの共演で、1995年に制作したアメリカ映画です。
タイトルの直訳は「深紅の潮流」ですが、「クリムゾンタイド」は舞台となる潜水艦と同じ名を持つアラバマ大学フットボールチームの愛称です。

目次

 

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1.ストーリー

1)プロローグ

ロシアでチェチェン紛争をきっかけに超国家主義者ウラジーミル・ラドチェンコ(ダニエル・フォン・バーゲン)率いる反乱が勃発しました。反乱軍は大陸間弾道ミサイルを発射できる基地など重要な兵力を自らの手におさめ、自らの要求が応じられなければ日米を核攻撃すると脅迫しまし、これに対しアメリカ政府は、オハイオ級原子力潜水艦アラバマ」を出撃させることを決定しました。


2)静かなる対立

アラバマ」の艦長で、実戦経験豊富な叩き上げのラムジー大佐(ジーン・ハックマン)は、ハーバード大学卒のエリートにしてアフリカ系のハンター少佐(デンゼル・ワシントン)を新たな副長に迎え、出港します。たたき上げの自負があり自信過剰のラムジーは軍規を無視し艦内にペットの犬を持ち込み、艦内で放尿させるなどやりたい放題でありましたが、乗員は見て見ぬふりをし、軍も大目に見ざるを得ませんでした。
しかし、艦内火災の際に演習を継続しようとする訓練方針の違い、火災の際に死亡したハンターと同じ黒人乗員への扱いなどをめぐって両者は対立し、危機にストレスを感じる乗員たちへの対処の食い違いなどから両者の溝は徐々に深まってゆくのでした。

 

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3)対立の激化

出港から6日目。北太平洋を哨戒中の「アラバマ」に指令が届きます。叛乱軍が弾道ミサイルに燃料注入を開始して、発射を阻止すべく先制攻撃を加えよ、というものでした。発射準備に忙殺される「アラバマ」に、叛乱軍のアクラ型攻撃型潜水艦が迫りました。
デコイ(囮魚雷)の放出により魚雷攻撃を間一髪で回避するものの、フローティング・アンテナのウィンチが損傷し、受信しつつあった新たな指令が中断してしまいました。途中まで印刷された指令文の解釈をめぐり、核ミサイル攻撃の準備を続行すべきだとするラムジーと、指令を再確認するまで攻撃を待つべきだとするハンター、2人の対立はついに頂点に達します。
ラムジーはハンターの意見を容れずにミサイルを発射しようとしますが、SLBMの発射には証人となる士官の前での艦長と副長両者の承認が必要であり、これは軍規違反となります。そこでラムジーはハンターを命令不服従として解任しようとしました。しかしながらハンターは逆に艦長のラムジーを軍法違反で拘束するように部下に命令を出しました。二人の上官から相反する命令を受け役割葛藤に当惑するウォルターズ先任伍長ジョージ・ズンザ)であったが、結局ハンターの主張が法理論上適切であると判断し、ハンターの命に従うのでした。

 

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4)潜水艦戦

引き続く叛乱軍潜水艦の魚雷攻撃を「アラバマ」は回避しつつ致命的な反撃を行い、何とか撃破するものの、被弾した魚雷によって、艦前部隔壁のブロー装置が機能せず、かつ浸水により死傷者を出し、さらに浮力を失い、あわや沈没の危機にさらされました。沈没はぎりぎりで避けられたものの、動揺した一部の士官たちはラムジーに唆されて武器庫を開けて武装し、艦長室に拘禁された艦長を救い出し、ラムジーがこんどは指揮権を回復しました。これまでの状況を反乱と断定し、ハンターを拘束し、核ミサイル攻撃を敢行しようとします。常日頃リベラルな態度を装うラムジーであったが、ことに及んで馬に準え、ハンターに対する人種差別的な隠喩を含む発言に至り、両者の関係は険悪になりました。

 

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5)究極の決断

ラムジーとハンターの相反する対応は、海軍の規定上どちらも間違ってはいませんでした。軍司令部よりのSLBM発射の命令は適切な手順を踏んでおり、これを中止するには同様の暗号による照合を経た命令を受けなければなりません。この命令を受けていない状態では、先の命令をそのまま遂行することを指示したラムジーの指示は適切であり、これに対し、発射命令の後、何らかの指示を含む暗号電報が発せられ、不完全な状態で受信した場合、確認のための措置を取ることは適切であるのでハンターの指示も正しいことになります。

 

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しかしながら、通信手段の故障や、ソ連の反乱軍の原潜の執拗な魚雷攻撃に悩まされ確認作業は困難を極めました。 もしミサイル攻撃が手遅れになれば、報復なしに大量の米国市民を無為に死なせることになり、反対に、もし攻撃指令が撤回されていたのであれば、ミサイル攻撃はロシア側の報復攻撃を呼び、最終戦争の引き金となっていまいます。ミサイル攻撃遂行か、指令の再確認か、外部との連絡が取れない艦内はふたつに割れて対立するのでしたが結局、通信装置が直り、完全な形で命令を受けることが可能になりました。命令はSLBMの発射を中止するように求めたもので、すなわちハンターの措置は正しかったことになりました。

 

6)査問委員会

しかしながら海軍の査問委員会では兵学校での同期の判事アンダーソン提督(ジェイソン・ロバーズ)によってラムジーに対する温情措置が求められ、名誉退役処分で事が収まりました。完全には納得がいかないハンターではありましたが、ラムジーが自分を次期艦長に推薦してくれたので矛を収め、一件落着した。 この一件は海軍の軍令に大きな禍根を残し、現在ではSLBM発射についての最終命令は大統領にのみ決定権が委ねられることになりました。

そして、ハンターはラムジーに感謝し、彼は潔く海軍を去り、二人のわだかまりポルトガルの名馬の産地をラムジーの方が間違っていたことを認め、ハンターの決断が正しかったことを自ら示唆するのでした。


2.潜水艦の照会

1)原子力潜水艦アラバマ

オハイオ級原子力潜水艦(Ohio class submarine)はアメリカ海軍が運用している弾道ミサイル原子力潜水艦(戦略ミサイル原子力潜水艦)(以下SSBNと表記)で、排水量、水上で16,764t、水中で18,750t、全長は170.67m、全幅、12.8mで、西側諸国で最大の排水量を誇る潜水艦であり、また全長と潜水艦発射弾道ミサイル搭載数は現役の潜水艦で最大です。

オハイオ級の主任務は弾道ミサイルの発射で、敵潜水艦への攻撃はバージニア級などの攻撃型原潜の任務ですが、敵潜水艦に発見された場合の反撃手段としてMk48魚雷も搭載しています。しかしその性質上隠密性が求められるため探査用のアクティブソナーは装備してません(航海用は装備している)。そのためそれほど有効な攻撃は出来ないと考えられ、また潜水艦は魚雷発射管から発射可能な対艦ミサイルや巡航ミサイルを装備していることが多いがオハイオ級は魚雷のみの装備となっています。
その他に魚雷攻撃を受けたときのための音響囮も8基装備されています。

 

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2)アクラ型原子力潜水艦

アクラ型原子力潜水艦(英語: Akula-class submarine)は、ソビエト/ロシア海軍の攻撃型原子力潜水艦(SSN)の艦級に対して付与されたNATOコードネームです。ソ連海軍での正式名は971型潜水艦、計画名は「シチューカB」(露: ≪щука-в≫、カワカマスの意)でした。公式の艦種類別は、当初は一等大型原子力潜水艦、1992年以降は一等潜水巡洋艦となりました。

排水量、水上で8,140t、水中で12,120t、全長は107.2 m、全幅、13.6mで、優れた船体設計もあり、本型は極めて静粛な艦となり、自艦騒音の低減によって受波器入口雑音レベルが低減されたこともあり、探知距離は700キロに達しています。またユニークな機能として航跡の追尾があり、数十時間前に通過した艦の航跡も識別できるとされています。

533mm魚雷発射管8門で、兵装搭載数は45本。搭載兵装としては、TEST-71魚雷、「シクヴァル」超高速魚雷、RPK-6「ウォドバド」 / RPK-7「ヴェテル」(SS-N-16)対潜ミサイル、RK-55「グラナート」(SS-N-21)巡航ミサイルが用いられていましたが、後に魚雷はUGSTに更新されたほか、対潜ミサイルも新型の91RE1が開発されています。また浮上時の防空用として携帯式防空ミサイルシステム18基を搭載しています。

 

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3.四方山話

1)原案

キューバ・ミサイル危機中に現実に起こった、ソ連潜水艦副長ヴァシリー・アルヒーポフのエピソードをモチーフとしています。


2)ささいな諍い

作中で、艦長と副長がリピッツァナーという馬種の起源がスペインとポルトガルのどちらなのかについて話す描写がありますが、実際にはどちらでもなく、イタリアのトリエステ (正確には、現在のスロベニア領内) が正解でした。


3)翻訳

日本語化の際一貫していない用語が幾つもある事が表面化して、劇場版、ビデオ、DVDの日本語字幕では、ジョージ・ズンザ演じるウォルターズ先任伍長(COB: Chief Of the Boat)が当直士官と訳されているが、これは誤りで、NHKBS2で放送されたものは最先任士官(その上に振り仮名でコッブ)となっているがこちらも誤りです。

また、ソフト版の吹替翻訳を手掛けた佐藤一公はNHK-BS2期の放送では字幕を担当して、アラバマが船体崩壊を起こす深度を「圧潰深度」と訳し、日本テレビ版(翻訳は佐藤恵子)では「破壊深度」と訳されています。


4)年齢

現役艦長としては、やや年をとり過ぎているように感じるジーン・ハックマン(撮影時65歳)ですが、やはりあの位の威厳や貫禄を見せないと、ハリウッド屈指の実力派で、沈着冷静、柔軟な対応と実行力、非の打ち所のないエリート士官役のデンゼル・ワシントンとのバランスがとれません。


5)ペット

小型犬を連れ回すジーン・ハックマンの姿は、セリフにも出てきますが、明らかに「猛将パットン」を意識しているようにも思えます。

 

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ちなみに犬種はジャック・ラッセル・テリアで非常に繊細で気性が荒いことで知られています。なお、パットンの愛犬はブル・テリアで間延びした顔は何とも言えないかわいさ、魅力がありますが、飼い主を咬む、言うことを聞かない、時に豹変するなど、悪評もあります。


4.まとめ

冒頭で、世界で最も力を持つ3人が、アメリカ、ロシア両国大統領と、そして原子力潜水艦の艦長だと明記されますが、その割には、余りにも感情に左右され過ぎて、最前線の指揮官の描き方には疑問が残り、それでは、ドラマにならないと言えばそれまでですが、核戦争勃発を決定する瞬間に、パニックに近い状態にならないのが、その立場に置かれた指揮官の資質であり、デンゼル・ワシントン演ずる副官の方が、どちらかと言えば適任者だろうということで、ラストはうまくまとまってはいます。

密室の混乱や敵艦との駆け引きなどは、他の作品と比べても新鮮味があるとは言えませんが、指揮権の奪い合いと敵艦との駆け引きなど、さすがに、トニー・スコットらしい、緊迫感が感じられます。