映画『フルメタル・ジャケット』最強の兵士の作り方教えます!??

この映画『フルメタル・ジャケット(Full Metal Jacket)』は、1987年に製作されたアメリカ・イギリス合作映画で、グスタフ・ハスフォードの小説『ショート・タイマーズ』が原作で、監督はスタンリー・キューブリックベトナム戦争を題材にした戦争映画です。

目次

 

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1.紹介

原作者グスタフ・ハスフォード自身の体験が基となっているため、リアルな脚本と映像が際立つ作品で、キューブリック自身が言っているように、反戦映画ではなく、戦争そのものを描いた作品として大きな反響を呼び、その仕上がりは高く評価されました。

過酷な訓練と、地獄の戦場を映し出した作品は他にもありますが、上記のように、戦争をストレートに描いた描写により、その恐ろしさや空虚さがダイレクトに伝わってきます。

戦争そのもの怖さよりも、ごく普通の青年が、人格を奪われ”殺人マシーン”に変貌させられる訓練や、それを経て戦地に赴いた兵士が人格を取り戻し、さらに凶暴さを増して、殺し屋のように変貌してゆく姿が恐ろしくもあります。

第60回アカデミー賞では脚色賞にノミネートされ、スラングの連発など、的を得た表現が入り混じるセリフのシャワーが圧巻です。

クライマックスの舞台となる市街のセットや、昼間から夜にかけて続く、時間が流れながらの、生々しい激戦シーンのカメラワークに目を見張らせられます。


2.ストーリー

1)プロローグ

ベトナム戦争中の1967年、アケメリカ、サウスキャロライナ州、ポート・ロイヤルのアメリ海兵隊新兵訓練基地”パリス・アイランド”に入隊したジェイムズ・T・デイヴィス(マシュー・モディーン)らは、先任軍曹ハートマン(R・リー・アーメイ)にウジ虫呼ばわりされながら、過酷な訓練を8週間受けることになります。

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2)厳しい訓練

ハートマンは容赦なく新兵をしごき、ドジを繰り返す図体ばかりデカいレナード・ローレンス(ヴィンセント・ドノフリオ)に、”ゴーマー・パイル”というあだ名をつけて罵倒します。

新兵達にとっては地獄のような日々が続き、落伍寸前のパイルに、”ジョーカー”(デイヴィス)や同僚の”カウボーイ”エヴァンズ(アーリス・ハワード)が手助けをします。

その後、ハートマンに意見するジョーカーは、罵られながらもその根性を買われて班長に任命され、パイルの面倒を見ることになりました。

しかし、パイルのせいで連帯責任を科せられた兵士達は、彼の虐待を始め、ジョーカーも仕方なくそれに加わります。

パイルは精神的に限界に達し、”M14”ライフルに語りかけるよういになり、ジョーカーはそれを心配するのですが、一方で、彼は射撃の腕前をハートマンに評価されました。


3)訓練の終了と惨劇

そして、訓練に耐え抜いた兵士達は卒業の日を迎えて、各人は配属部隊を知らされ、ジョーカーは、基礎軍事報道部に配属されることになりました。

基地での最後の夜、見回りをしていたジョーカーは、トイレで、ライフルに”フルメタル・ジャケット”(完全被甲弾)を弾倉に装着している、目つきの変わったパイルを見つけました。

騒ぎ始めたパイルに気づいたハートマンは、彼に銃を置くよう怒鳴り飛ばしましたが、パイルはハートマンを射殺し、ジョーカーの制止も聞かず、次の瞬間、銃口を咥え、自分に向けて撃ち自殺しました。

 

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4)ベトナム、ダナン

1968年1月、海兵隊基地で、”スターズ&ストライプス”の軍事報道部に配属されていたジョーカーは、同僚のカメラマン、ラフターマン(ケヴィン・メイジャー・ハワード)らと、平穏ではあるが、退屈な日々を送っていました。

テト(旧正月)、休戦と見せかけていた北ヴェトナム軍は、各地で攻勢を仕掛けて、ジョーカーらも敵と交戦します。

そして、テト攻勢となり、ジョーカーは、激戦となったフエ市を取材するために、ラフターマンと共に現地に向かいました。


5)ベトナム、フエ

郊外でウォルター・J”タッチダウン”シノスキー中尉(エド・オロス)と出会ったジョーカーらは、民間人が殺された事実を確認し、前線部隊に合流して、訓練校以来のカウボーイと再会します。

部隊には、兵アニマル・マザー(アダム・ボールドウィン)やエイトボール(ドリアン・ヘアウッド)らがいて、ジョーカーらを”歓迎”しました。

ジョーカーらは部隊と共に市街に向かい、”フエの戦い”を最前線で取材することになりました。

 

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6)指揮官の苦悩

敵が撤退したとの報告を受け、部隊はその確認を命ぜられ、一人が戦死し、カウボーイが指揮を執ることになりました。

偵察に出たエイトボールは、廃墟の建物に潜む敵の狙撃兵に銃撃され、部隊は応戦するが足止めを食らいます。

その狙撃兵は部隊を誘き寄せるために、エイトボールに何発もの銃弾を浴びせ、彼の手当てに向かった衛生兵も狙撃されました。

援軍を待てないカウボーイは、仕方なく撤退を考えますが、アニマル・マザーが、その命令を無視してエイトボールらの元に向かいます。

 

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7)敵討ち

アニマル・マザーは、エイトボールらの死と狙撃兵が1人だということを確認し、カウボーイにそれを伝えて部隊を呼びました。

カウボーイは、ジョーカーらを引き連れて前進しますが、狙撃兵に銃撃されて死亡します。

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仲間の仇を討つために、アニマル・マザーらは煙幕を張り前進しました。

ジョーカーが狙撃兵の女性兵士を見つけますが、銃の故障で撃つことができません。

ラフターマンが狙撃兵を銃撃し、ジョーカーは、まだ息のある彼女を残していけないことを、アニマル・マザーに告げる。

瀕死の女性兵は、自分を撃つように兵士に哀願します。ジョーカーは、躊躇しながらも彼女を射殺しました。


8)エピローグ

その後、市街の敵を排除したことを確認した部隊は、除隊も近いことを思い”ミッキーマウスのマーチ”を歌い、地獄にいながらも、生きていることを実感して前進するのでした。

 

 

 

 

 

3.四方山話

1)日本語訳

他のキューブリック作品でも多い例ですが、キューブリック自身が本作品の字幕翻訳をチェックしています。

当初、日本語字幕への翻訳は戸田奈津子が担当しましたが、ハートマン軍曹の台詞を穏当に意訳したため、再英訳を読んだキューブリックは「汚さが出てない」として戸田の翻訳を却下しました。

急遽、原田眞人が起用され、翻訳作業にあたりました。キューブリックが原文の直訳を要求した結果、「まるでそびえたつクソだ!」などの奇抜な言い回しがかえって名台詞として著名になり、さまざまなパロディが登場しました。


2)訓練教官役

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当初、訓練教官役への演技指導のために、海兵隊の訓練教官を務めた経験のあるR・リー・アーメイが呼ばれましたが、その迫力が余りにも生々しく圧倒的だったため、自ら訓練教官を演じることになりました。

訓練シーンの台詞のほとんどが猥褻で下品なものが含まれ、さらに本人ばかりか出身地や家族まで徹底的にこき下ろす彼の罵詈雑言に、出演者が怒り出すこともあったといいます。

映画前半の訓練キャンプの描写は非常に有名ですが、原作小説では全体の1/5程度を占める部分にすぎず、配給会社が用意した映画の予告編にも登場しません。

しかしながら、この部分が本作には、シャクも意味も重要で、このキャスティングが見事に当たったと言えるでしょう。

 

3)撮影

アメリカ合衆国ベトナムが舞台だが、イギリスで撮影されました。そして原作の後半が省略されたこともあり、ベトナム戦争を扱った映画には珍しくジャングルでの戦闘がなく、主に市街戦が描かれています。

ただし原作ではフエ宮殿地域の邸宅群が舞台となっているのに対し、映画ではコンクリート建築が並ぶ街並みにアレンジされています。

キューブリックはいつものように完璧なリサーチを開始し、あらゆる現地映像、数千枚の写真や膨大な資料を読み込み、ベトナム戦争を自身の中に構築していきました。ロケはロンドン東部にある1930年代の機能主義建築によるガス工場の広大な跡地で、長女カテリーナの結婚式の帰り道に偶然見つけた場所だでした。

ここに戦時下のフエのイメージを重ねたキューブリックは、200本のヤシやシュロの木をスペインから取り寄せ植林、建物を破壊し瓦礫の市街地を創り出しました。

俳優たちは当初18週間の契約を結んでいましたが、撮影は結局17ヶ月間にも及びました。


4)ミリタリーケイデンス

訓練中に歌っている歌は、ミリタリーケイデンス(military cadence)といい、軍隊で訓練時に唱和される行進曲、労働歌の一種です。警察学校や消防学校の訓練でも唱和されるそうです。

ミリタリーケイデンスは、軍隊でのランニング、行進、行軍及びその訓練の際に唱和され、特にアメリカ軍ではアメリカ独立戦争北軍プロイセン王国陸軍士官フリードリッヒ・ヴィルヘルム・フォン・シュトイベン(フォン・シュトイベン男爵)を招いた際に、他の基本教練技術と共に取り入れられて以来、新兵訓練において必修科目となっています。

ミリタリーケイデンスの目的は、これを合唱することによって部隊の士気が盛り上がり、隊員同士のチームワークと助け合いの精神、規律が高まることにあります。

さらに、ジョディコールなどで兵士のホームシックを和らげたり、軍や上官への文句を歌詞に盛り込むことで兵士の不満をガス抜きするという目的もあります。

また、19世紀までの戦闘においては、自軍をより多勢に見せることや、歩兵部隊の行軍速度を上げること、味方同士の意思疎通、さらにはマスケット銃に弾を込め、発射するまでのリズムをとるという目的もありました。

本作のように、幾つかのミリタリーケイデンスの歌詞はわいせつであったり、差別的、あるいは過度に暴力的で残酷な表現が含まれているため兵士からも批判されることがあります。

 

 

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4.まとめ

凄まじい言葉の嵐によって狂気を引き出される新兵たち。キューブリックはそこに戦争そのものを見たのでしょう。

本作は、反戦映画、ベトナム戦争映画という枠には到底収まらない、人間の本質を問うた作品なのです。