映画『運び屋』クリント・イーストウッドの見事なエイジシュートです!!

この映画『運び屋(The Mule)』は、『ニューヨーク・タイムズ』のサム・ドルニックの記事「The Sinaloa Cartel's 90-Year-Old Drug Mule」を原案として、脚本はニック・シェンクが執筆し、監督・主演はクリント・イーストウッドによる、2018年のアメリカ合衆国の犯罪映画です。

目次

 

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1.紹介

撮影当時88歳になっていたということで、流石に容姿は老いたものの、製作と監督に加えて主演もこなすクリント・イーストウッドの、映画人生に対する情熱には敬服させられます。

生死を賭けた激戦の地で戦った退役軍人である主人公が、麻薬カルテルの極悪人に遠慮なく接する姿など、人間の年輪を感じさせる人物描写も含め、クリント・イーストウッドの深い演出が見どころの作品です。

アメリカン・スナイパー』のブラッドリー・クーパー、『ミスティック・リバー』でのローレンス・フィッシュバーン、『ミリオンダラー・ベイビー』でのマイケル・ペーニャ、などの共演と、娘のアリソン・イーストウッドを加えて、ガチガチのイーストウッド・ファミリー・ムービーとなりました。


2.ストーリー

1)プロローグ

アール・ストーン(クリント・イーストウッド)は自分の農園でデイリリーを育てており、品評会でも賞をもらうほど見事な花を咲かせる手腕を持っていました。

若い頃は全米をトラックで走り回り家族を養いましたが、遊び惚けることも多く、いつしか家族とは疎遠になってしまっていました。

仕事を優先するアールは娘のアイリス(アリソン・イーストウッド)の再婚式をすっぽかします。

今までもそういったことには全く関心を示さなかったので妻のメアリー(ダイアン・ウィースト)は慣れっこでしたが、今度こそは参加してくれると思っていたアイリスは酷く傷ついてしまうのでした。


2)おいしい仕事

それから12年後、今度はアイリスの娘のジニー(タイッサ・ファーミガ)が結婚することになりました。アールは孫の結婚式のために援助をする予定でしたが、インターネットの普及によりアールの農園のデイリリーは売れなくなり差し押さえを食らってしまいます。

 

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結婚の前祝いをするジニーの家を訪ねたアールはそこでアイリスたちと顔を合わせます。未だに父を許せないアイリスはその場を去り、アールは倒産して行く所が無くなったのだと気がついたメアリーは、今度は孫を失望されるのかと呆れました。

立ち去ろうとするアールに前祝いに来ていたリコ(ヴィクター・ラサック)という男が話しかけます。

アールは長いことトラックで運送業をしていましたが違反は一度もありませんでした。それを聞いたリコは、もし金に困っているのなら、町から町へ走るだけで金になる仕事があるとアールに告げました。

アールは、リコからもらったメモを頼りにテキサス州エルパソのタイヤ屋を訪ねます。そこには銃を手にした屈強そうな男たちがいました。

携帯電話を渡され、あるホテルまで荷物を載せて運び、その場に車とキーを置いて1時間後に戻れと言われます。荷物は絶対に開けるなと言われましたが、アールは最初からそんなつもりはありませんでした。

アールはテキサス州からイリノイ州へと入り、目的地のホテルの駐車場に車を停めます。1時間後にトラックに戻ってみるとグローブボックスに大金が入っていました。そこに男が現れ、また仕事がしたくなったら連絡しろとメモを渡されるのでした。

 

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大金を得たアールはジニーの結婚式後のパーティの金を払うことができました。アールはメアリーと昔のようになれないかと話しかけましたが、彼女の心はすっかり閉じてしまっていたのです。

家族がバラバラになってしまったのはアールがデイリリーに夢中になってしまったためでした。アールは、美しいが難しい花で時間もお金もかかるものなのだと言いましたが、メアリーは、家族だって同じ、なのにあなたは家族よりも花を選んだと言って嘆くばかりでした。


3)エスカレートする仕事

農園を取り戻したくなったアールは、再び運び屋の仕事を引き受けることにしました。今まで乗っていたオンボロのトラックは売り払い、新車のゴキゲンな黒いトラックに乗り換えたアールは、荷物を積んで前回と同じホテルへと向かいます。

荷物を無事に届けたアールの手には大金が舞い込み、その金で農場と自宅を取り戻しました。

アールが何十年も通っている退役軍人クラブがボヤ騒ぎを起こし、当面の間は営業できないと言われます。誰かが金を工面してくれればという言葉で、アールは3度目の運び屋の仕事を受けます。

しかしながら、今度の荷物はかなり大きく、気になったアールはつい荷物を開けてしまう。中身はなんと大量のコカインでした。

そこへ、警察犬を連れた警官が話しかけてきました。アールは気がつかれないように警官と犬をやり過ごすと、速やかにホテルへと荷物を運びます。

 

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今回の仕事の報酬は今までよりも更に高額でした。アールはその金で退役軍人クラブの営業を再開させ、集まった者たちは皆、アールに感謝の言葉を贈りました。

運び屋の仕事に慣れ始めたアールは、安全運転でのんびりと麻薬を運び、受け取った後は毎回渡された携帯電話をちゃんと捨てることも学んでいきました。

アールの活躍はメキシコの組織のボス、ラトン(アンディ・ガルシア)の耳にも入り、アールにデカいブツを運ばせろと部下のフリオ(イグナシオ・セリッチオ)に指示し、監視のために同行しろと言いました。


4)上がる実績と評価と取り締まりの強化

フリオは仲間のサルを連れてアールの前に現れました。彼はアールを自分の制御下に置こうと凄みましたが、アールは常に自分のやりたいようにマイペースを崩しませんでした。

アールはタイヤ屋の男たちに、携帯のメールのやり方を教わるほどすっかり馴染んでいました。

270万ドル相当のブツを積んでいるにも関わらず、アールはパンクした車を助けたり、ブツをトラックに載せたまま、ホテルで美女たちと寛いだりします。フリオは冷や冷やしっぱなしでした。

イリノイ州に入りましたがアールは目的地のホテルへと向かわず、別の場所へとやってきました。そこは組織の隠れ家で、メールのやり方を聞いた時にここの住所を打ち込んでしまったのが原因でした。現れたフリオは苛立ちましたがアールはお構いなしでした。

 

DEA麻薬取締局にやってきたコリン・ベイツ捜査官(ブラッドリー・クーパー)は優秀な成績から上司のウォーレン・ルイス主任特別捜査官(ローレンス・フィッシュバーン)に期待されています。

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彼はトレヴィノ捜査官(マイケル・ペーニャ)と組み、イリノイ州での麻薬密輸を取り締まろうと息巻いていました。

ブツを売り捌く男を抱き込み、組織の内情を聞き出したコリンは“タタ”と呼ばれる運び屋が大量に麻薬を運んでいることを突き止めます。そのタタとはアールのことでした。

運び屋の仕事も9回目を数えようとしていました。アールはフリオとサルを誘い、ポークサンドで有名な店で一緒に食事をします。サンドは美味しかったのですが、もう勝手に車を停めるなとフリオは言いました。

その時、警官がフリオたちに尋問してきまし、緊張した空気が流れましたが、アールがそこに割って入り、警官を追い払ってくれました。

コリンは運び屋の車といつも通るルートについての情報を得ました。車の色は黒で55号線を走るのだと。上司に許可を取ったコリンは黒い車を調べ、組織が知る前に逮捕しようと考えました。

フリオたちは黒い車ばかりが停められていることに焦りの色を見せましたが、アールは気にもせず、282キロという大量の麻薬を難なく運びきってしまいます。それがラトンに評価され、アールはメキシコの彼の屋敷へと招待されました。

ラトンから盛大な歓待を受けたアールは美女と楽しみ最高の時間を過ごししました。酔って浮かれるフリオにアールは組織を辞めるべきだとアドバイスをします。

ここの連中はお前のことをなんとも思っていないからと。しかし、フリオはラトンには恩義があるし、彼らは俺の“家族”なのだと言って聞きませんでした。

DEAのお偉方は結果を出せないことに苛立ちを見せ始めました。コリンは近く大量のブツが運び込まれる情報があるので、必ず摘発まで持っていくと作戦を実行しますが、そこではごくわずかな麻薬しか発見できませんでした。


5)交叉する敵味方

ジニーの卒業式に参列したアールでしたが、アイリスからは相変わらず避けられています。ジニーの卒業には金が必要でしたが、それをアールが立て替え、無事に卒業することができました。

それを知ったメアリーからは久しぶりに笑顔が出ましたが、会話している最中、体調が悪そうな雰囲気を感じたアールは少し心配を募らせました。

 

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メキシコのラトンが部下のグスタボ(クリフトン・コリンズJr.)に裏切られて射殺されてしまいます。組織のボスになったグスタボはフリオを呼びつけ、これからは時間厳守できっちりと仕事をしろと命令しました。

アールにもそれを教え込むため、別のチームに引き渡せと指示されました。別チームは見せしめにサルを殺し、アールを脅します。銃を突きつけられたアールには頷く以外に選択肢はありませんでした。

今度こそ“タタ”を捕まえようと躍起になるコリンとトレビノは、55号線を走り、怪しげな黒いトラックを停めて尋問を繰り返していきます。抱き込んだ男から、運び屋はエイブ・モーテルに泊まるとの情報を得た2人はそこを監視しました。

 

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モーテルには確かに運び屋であるアールが宿泊しています。だが、彼らは老人が運び屋だとは思わず、屈強な男が運び屋だと思い、踏み込みます。

捜査は失敗に終わり、コリンたちは明日から再び55号線を張ることにしました。その様子を、アールはカーテンの隙間からこっそりと見つめているのでした。

翌朝、アールとコリンはダイナーで顔を合わせました。アールは昨夜の捕り物について見事だったと感想を述べましたが、コリンはうなだれました。

仕事のせいで妻との記念日をうっかり忘れてしまったと言うコリンに、アールは、家族は大切にしたほうがいいとアドバイスします。

仕事は2番でもいいが、家族は1番でなくてはならない。俺はそれで後悔していると心境を吐露します。アールは店を出て行き、コリンは彼が運び屋だと気がつかずに去って行きました。


6)メアリーの最後

ジニーから電話があり、メアリーが倒れたと教えられました。病魔に侵されたメアリーはあと数日生きられるかどうかの瀬戸際まで来ていたのです。

今すぐに来てほしいと言われますが、ブツを運んでいる最中だったため予定を変えることはできません。無理だと言うとジニーは喚き、母の言う通りの人だったと嘆きました。

アールは仕事を中断してメアリーに会いに行きました。力なく笑う彼女にアールは、俺は今まで家の外で評価されたいと思っていて、家では俺は役立たずだったからと思いを告げました。

それを聞いたメアリーは、不思議だけどあなたがここにいてくれることが嬉しいと優しく言いました。

メアリーは最近のアールの金払いの良さが気になり、どうやって大金を手にしているのかと尋ねます。アールは最初こそ冗談を言っていたが、麻薬の運び屋をやっていると真実を伝えました。

だが、メアリーはそれもジョークだと思って信じてはくれなかった。彼女は、そばにいるためにお金など必要ないと言い、その言葉はアールに深く突き刺さりました。

家の庭にはデイリリーの花が植えられていました。それを眺めていたアールにアイリスが話しかけてきました。アールは、今まで良い父親でも夫でもなかった、俺は身勝手で最低な男だと謝罪しました。

 

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アイリスは、そんなことはない、遅咲きなだけだと言って笑ってくれたのでした。

アールは何日もメアリーの看病を続けたが、遂に別れの時がやってきました。葬儀は滞りなく行われ、式場はアールが育てたデイリリーの花で埋め尽くされた。

葬儀後、アイリスはアールを呼び止め、今度の感謝祭を一緒に過ごさないかと言いました。アールはもちろんだと答えたのでした。


7)所業を悔いて

その帰り道、組織の男たちに発見されてしまいます。グスタボは今すぐにアールを殺せと言いましたが、妻の葬儀の帰りだと知った男たちはアールが気の毒になり、運び屋としての腕も良いので殺さないでおこうと提案します。グスタボは承知し、今すぐに荷物を運ばせろと指示しました。

その会話をコリンたちは盗聴していて、55号線に“タタ”がいることを知った彼らは、大急ぎで現場へと向かいました。アールの車に追いついたコリンは車を停車させてアールを降ろさせます。

手錠を掛ける時に顔を見たコリンは、ダイナーで会った男だとすぐに気がつきましたた。アールは、今日、あんたに逮捕されてよかった。家族と過ごせたから。それが、何よりも大切なことだとコリンに告げ、連行されていきました。

裁判が開かれますが、アールは弁護士の弁論を遮り、自分は有罪だ、全ての罪を認めると発言します。アールの罪はその場で確定し、刑務所に戻されることになりました。

傍聴席に来ていたアイリスとジニーは涙ぐみながら、面会に必ず行くとアールに告げました。去り際、アールは2人に言いました。時間が大切なんだ、何でも買えるのに時間だけは買えなかった、と。


8)エピローグ

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アールは刑務所の庭で土をいじりながら汗を掻いていました。花壇には、美しいデイリリーの花が咲き乱れています。

バックからエンドロールへと、トビー・キースの「Don’t let the old man in」が流れます。


「老いを迎え入れるな」と。そして

Don’t let the old man in, I wanna leave this alone.

「老いを迎え入れるな もう少し生きたいから」と。

 

 

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3.四方山話

1)原題

『The Mule』は、頑固者、片意地者といった意味のほか、俗語で「麻薬や密輸品の運び屋」の意味もあります。

本作で、主人公アール・ストーンが運ぶものは、コカイン、まさに「麻薬」であり邦題の『運び屋』はストレートなタイトルになっています。


2)実話

第二次大戦に従軍した退役軍人が、デイリリー(ユリ科の植物)の栽培でいったん成功するも時代の変化に取り残され没落、80過ぎでメキシコの麻薬カルテルから運び屋としてスカウトされる――という大筋はほぼ実話です。

シェンクはそこに、外面はいいものの家族を顧みず見放された男が、懸命に罪滅ぼしをして元妻や娘との絆を取り戻そうとするサイドストーリーを織り込みました。


3)罪滅ぼし

30近くで人気スターになったイーストウッドは派手な私生活を送り、結婚歴は2回ですが6人の女性との間に8人の子がいるとされています。

最初の妻との間に生まれた実子アリソン・イーストウッドが本作でアールの娘アイリスを演じていて、父親に対する彼女の冷ややかで激しい態度には映画と現実の境界を歪ませるようなすごみがあります。

また、イーストウッドも作品を通じて家族への謝意を示しているように見えなくもありません。

 

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4.まとめ

さすがのイーストウッド、悲しくも可笑しい90歳の老人を見事に演じています。もちろんのことながら老け顔の特殊メイクも不要な訳です。

ここまで来てもカメラの前に立とうとするのは、目の前に演りたい題材があったということで、たゆまぬ好奇心と創作意欲のなせる業というしかなく、尊敬の念を禁じえません。

イーストウッドの次の主演映画が、ゾンビのラブストーリーとなりませぬようお祈りいたします。

 

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