映画『おとうと』単なる家族愛に留まらない山田洋次監督のホームドラマです!!

この映画『おとうと』は、監督山田洋次、主演吉永小百合、共演笑福亭鶴瓶蒼井優他による2010年公開の映画です。

小さな薬局を営む姉と、ごんたくれの弟との交流が姉の一人娘の視点から描かれます。山田洋次監督が、市川崑監督の同名作品(1960年)へのオマージュとして製作しました。

目次

 

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1.紹介

山田監督は、本作を「家族という厄介な絆」という言葉で定義づけています。まさにこの「厄介な絆」を見事に山田組が見せてくれました。

市川崑監督作品へのオマージュとして、病に倒れた弟に姉が鍋焼きうどんを食べさせるシーン、そしてふたりがリボンで手をつないで眠るシーンが反復されています。

2010年2月11日開催の第60回ベルリン国際映画祭でクロージング上映され、山田洋次監督に特別功労賞に当たるベルリナーレ・カメラ賞が贈られました。


2.ストーリー

1)プロローグ

高野吟子(吉永小百合)は、早くに夫に先に旅立たれ女手一つで娘小春(蒼井優)を育てていました。

小春を育てながら義理の母、絹代(加藤治子)の世話もする苦労人でした。東京の郊外で、小さな薬局を営みながら派手ではありませんが慎ましやかな生活をしています。

吟子の弟、丹野鉄郎(笑福亭鶴瓶)は若い頃から破天荒で風のようにひゅっとどこかへ言ってしまう目が離せない男でした、彼は大阪で役者になるため飛び出していったが、吟子の夫が13回忌を迎えた際に、酒の席で酔い潰れ、大暴れして親戚中から鼻つまみ者になっていました。


2)小春の結婚式

小春は美しく成長し、若い医者と結婚することになりました。吟子は喜んで、ずっと苦労してきた母の背中を見ていた小春は母にめいっぱい感謝を告げると結婚式の晴れの日を迎えていました。

吟子は鉄郎にも小春の結婚と、ぜひ式に参加して欲しいと手紙に綴って送りましたが宛先不明で返送されてきます。

しかし式当日に、音信不通で返事もよこさなかった鉄郎が羽織袴を着込んで、ひょっこり顔を出し、そのまま披露宴に参列することになりました。当然、参列した親戚一同たちは鉄郎の顔を見て良い顔などはしません。怒る親戚の一人からは式場を追い出されそうになりますが、吟子が必死になだめて何とか場を収めていました。


3)大騒ぎ

酒がきっかけで鉄郎が正気を失うことを知っていた吟子の兄、丹野庄平(小林稔侍)は席についても酒を一滴も飲ませるなと吟子にきつく誓わせていました。

鉄郎ももちろん吟子から何度も酒は飲むなと言われていたのですが、目の前に乾杯用のシャンパンを置かれてしまうと誘惑に負け、一気飲みしてしまいます。

新婦側の親戚たちの場が凍りました。もう一度、咎が外れると誰も鉄郎の勢いは止められません。ビールやら日本酒やらを一気に次々煽る鉄郎、すっかり泥酔した姿で、スピーチをしている人を押しのけ、無茶苦茶なスピーチを話そうとしたり演歌を歌ったりとやりたい放題、ついには吟子が挨拶のために中座した間に小春の夫にも絡み、小春の晴れの場をぶち壊してしまいました。

 

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4)小春の不幸

庄平は、これを見て丹野家の恥だと激怒し、鉄郎と家の縁を切ると言い放ち去っていきます。鉄郎は逃げるように式場を飛び出し、そのまままた一切の、消息はなくなってしまいました。必死で鉄郎を守ろうとした吟子もこれにはさすがにがっくりと肩を落としてしまうのでした。

小春にも苦難が訪れていました。それまで優しい母、穏やかな親戚たちという高野家の印象は一気に悪くなり、小春は夫側から鉄郎のことを責められ、次第に夫との仲も険悪になっていきます。

そんな中で結婚生活は続くわけではなく、ついに小春は離婚する覚悟をしていました。せっかく縁で結婚したのに申し訳ないと小春は吟子に告げます。吟子はあまりに居た堪れず小春を抱きしめ宥めました。

小春は離婚し、また自宅に戻ってきました。


5)鉄郎の借金

吟子、小春、絹代の三人生活がまたはじまりました。

そんなある日、大阪から何やら派手な服装の一人の女が高野家を訪ねてきます。鉄郎と付き合っているという大原ひとみ(キムラ緑子)でした。ひとみはずっと前に鉄郎に130万円を貸していたが全然返してくれないので実姉である吟子を訪ねてきたというのです。

鉄郎は金を借りたまま出奔してしまったので、全額でなくてもいいから金を工面して欲しいといいます。手元には鉄郎直筆の借用書も握られていて、吟子は手元にあったこつこつとためていた貯金をかき集め、鉄郎の借金を全て肩代わりしました。

数日後、ふらりと行方が分からなかった鉄郎が現れました。吟子が借金を全て返済してくれたのを聞いて何やら顔色を伺うように吟子と会話をかわしています。鉄郎の姿を見て、吟子の苦労を近くで見てきた小春は怒りの表情を浮かべ鉄郎に噛み付いきます。しかしながら鉄郎はぶつぶつと保身のために言い訳ばかりしているのでした。

なけなしの貯金をはたき、小春の離婚の一因となったのに反省もなにもしない鉄郎に平手打ちを浴びせ、縁を切る
と言い放ち、鉄郎を追い出しました。鉄郎は恨み節を外で言っていましたが、吟子たちが反応しないと知りそのまま姿を消しました。


6)家族という厄介な絆

それからは暫く吟子たちは穏やかな生活を送っていましたが、ある日大阪から連絡が入ります、警察からで、電話をしてきた警察官は、吟子に鉄郎が救急車で搬送され今は大阪市内の病院に入院しているというものでした。

鉄郎が言い訳をし、そして吟子が絶縁を言い渡したあの日、去りゆく鉄郎はどこか痩せて調子が悪そうだったことを吟子は思い出していました。

そんな後ろ姿を見ていた吟子は鉄郎を捨てきれず、念の為警察に鉄郎の捜索願いを出していたのでした。一度は縁を切ったのですがやはり吟子は、鉄郎を見舞いに大阪にいく決意をするのでした。

しかし小春はもう放っておいたら?と言い放ちます。そんな彼女に吟子はゆっくりと鉄郎は小春の名付け親であることを告げました。

小春、という名前をつけることを吟子は実は許していなかったのですが、それを諌めたのは亡くなった吟子の夫、つまり小春の父親だったのです。

いつも破天荒で無茶苦茶だった鉄郎を暖かな目で見ていた夫は、たまには鉄郎にも花をもたせてやろう、と吟子を説得していたのでした。

幼い頃から周辺から見ると自分勝手だった鉄郎でしたが、周りからあまりに褒められない子だったのです。夫は「鉄郎くんに感謝したい」と告げていたことから、吟子はどこか負い目を感じいつも鉄郎を庇い、甘やかしてきたと言うのです。

罪悪感、それが吟子が鉄郎にずっと心の奥底で抱いていた気持ちでした。


7)吟子大阪へ

小春が吟子の気持ちに納得し、何も言わず大阪へ送り出します。吟子はホスピス「みどりのいえ」へ向かい、鉄郎の主治医に全身にガンが転移していてもう末期の状態だと聞かされます。余命は数ヶ月だと知らされました。

部屋を訪れた吟子の前には、すっかり痩せ衰えた鉄郎が床についています。鉄郎は突然、訪ねてきた姉に惨めな姿は見せたくないと面会を拒絶するのですが吟子は根気強く鉄郎の部屋に通います。

絶縁の日を謝る吟子に、どこか他人行儀で話す鉄郎でした。吟子は鉄郎に自分の逝く日は4月7日だと勝手に決めているようだと思っているようだ、と医者から聞かされていました。

鉄郎の命はもう残り少ない、吟子は鉄郎と残された時間をできるだけ共に過ごそうと決意します。

鉄郎は点滴の中にこれ、入れてぇなとペットボトルに入った酒を吟子に差し出します。すっかり酒がないと生きられない鉄郎の最後のあがきのようなものでした。

 

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行き倒れてみじめな姿を思い浮かべていた吟子は、鉄郎が「みどりのいえ」であたたかく過ごさせて貰ってる姿を見て安堵し、いったん東京へもどりました。

その頃、小春は幼馴染でずっと彼女を思い続けていた大工の長田亨(加瀬亮)と、再婚することを決意していました。

桜の花が散り始めた4月6日、大阪の「みどりのいえ」の所長の小宮山進(小日向文世)から、鉄郎危篤の知らせが入ってきました。

 

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8)終の棲家

ずっとふらふらと根無草だった鉄郎にとって最後に過ごしたこの短い時間は、穏やかで静かで大好きな姉がそばにいてくれる幸せな一時でした。

鉄郎は今まで側にいなかった分、吟子に甘え「鍋焼きうどんが食べたい」と言うと、吟子は鉄郎に食べさせようとしますが、既に何かを口にできるほどもう体力はなく、一口だけほおばり「美味いなあ」とか細い声で言いました。

夜、眠る時に誰かいてくれないととても不安になるという鉄郎の気持ちに吟子は応え、鉄郎が目覚めたときに気づけるよう、桃色のリボンを互いの手首に繋げあい二人は眠りました。

鉄郎はふがいない自分と、今までの感謝を涙ながらに吟子へ伝えます。

 

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奇しくも4月7日。鉄郎は吟子、そして駆けつけた小春と享の前で静かに息を引き取りました。


9)エピローグ

その後、再婚することになった小春にささやかな祝いの席が催されます。これまでずっと鉄郎のことを厄介者だと言っていた祖母の絹代(加藤治子)は、老いで鉄郎がいなくなったことが理解できずに

「小春の二度目の結婚式にあの変わり者の弟を呼んであげないとかわいそうだ。皆にのけ者にされて一人ぼっちだろ。お酒さえ飲ませなけりゃいいんだから呼んでやったら?」と言いました。

それを聞いて吟子は、義母の心遣いに静かに涙するのでした。

 

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3.四方山話

1)撮影

本作の大阪市西成区にあるという設定の「みどりのいえ」は、東京都の山谷地域に実在するホスピスの「きぼうのいえ」をモデルにしたものでした。

ロケ地としては、東京都大田区の石川台希望ヶ丘商店街、千葉県木更津市のオークラアカデミアパークホテル、大阪市西成区浪速区星薬科大学横浜市立みなと赤十字病院などで行われました。

姉・吟子が東京から大阪に向かうシーンでは、東海道新幹線の座席の色などが異なっています。これは、JR東日本企画のロケーションサービスによって、はやて14号(八戸 - 東京)車内が撮影に利用されたことによるものです。


2)ごんたくれ

「ごんたくれ」は、「困った人」あるいは「乱暴者」、「いたずら者」のことで、単に「ごんた」ともいいます。
全国各地で使われる言葉ですが、『義経千本桜』三段目の登場人物「いがみの権太」に由来し、意味するニュアンスは地域によって多少異なる場合があります。


3)ホームドラマ

本作は、一見古臭いホームドラマでありながら、従来のそれとは明らかに違っていて、山田洋次監督は、2010年に封切るべき意義のある古典的ドラマを作り上げています。

そして何より高く評価したいのは、こうしたホームドラマに現代的なテーマをしのばせたことです。

テレビがなかった時代ならいざ知らず、退屈なホームドラマなんぞを作る意義は、いまの時代にはありません。たとえそういうジャンルであったとしても、そこには監督が社会をみつめる視線があってしかるべきです。

本作において、後半に出てくる身寄りのない人々を看取る団体の話で、これがあるとないでは大違いです。ここにこそ、この監督ならではの、社会問題に対する真剣かつ優しい視線がこめられており、強い感動を与えることができることになります。


4.まとめ

失われつつある「家族の絆」を描く一方で、末期患者を看取る「ホスピス」の実状を描くなど、現代社会への提起となる問題を盛り込んでいる点においても深い意味を感じさせられる作品でした。

 

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